『もうみんな避難していますよ!』 認知バイアスの利用で避難行動を促進できることを確認

2023.04.13

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千葉大学文学部卒業生の池田 朋矢 氏(令和元年学部卒業)と千葉大学大学院人文科学研究院の一川 誠 教授は、自然災害が発生した際に発せられる避難指示文書に他者の避難状況についての情報を含めることにより、避難行動の必要性に関する判断にどのような影響を及ぼすか調べました。その結果、特に、危険度が低い状況において、多くの他者が避難しているという情報が、避難の必要性に対する判断を促進することが示されました。

この結果は、認知バイアスの一つである同調バイアスを利用することで、自然災害時の避難行動を促進できることを示唆しています。本研究成果は、2023年4月23日発行の日本感性工学会論文誌第22巻2号で公開されます。(4月13日オンラインにて先行公開)

■研究の背景:

近年、豪雨や地震などの災害時、自治体からの避難指示が住民の避難行動につながらず、災害の規模が拡大する事例が数多く報告され、問題となっています。災害発生時の避難行動の失敗については、状況の深刻さや避難に要する時間や労力の見通しの誤りに、さまざまな認知バイアスやヒューリスティクス注1、2)が介在している可能性が指摘されてきました。

本研究では、地下街での避難行動実験や避難行動のネットワークモデルで有効性が示唆されてきた同調バイアスに着目し、その利用が自然災害発生時の避難行動促進に及ぼす影響を検討しました。

■研究方法:エリアメール文章に他者の避難状況を追加

実験は、20名の参加者を対象に行いました。災害時に自治体などから発信されるエリアメールに模した文章(例:土砂災害境界情報が発令されました。土砂災害の恐れがある地域にお住まいの方は避難を開始してください。)に続いて災害状況を示す3段階の危険度(高・中・低)それぞれ30枚、計90枚の景観画像のうち1枚を提示し、参加者は、画像の危険度とその状況を目にした場合の避難の必要性について7段階評定しました(図1)。

実験において提示する文章には他者の避難の状況についての情報を加え(図2)、その後に画像提示された状況の危険性やそこから避難する必要性の認知に及ぼす影響を調べました。評定結果と個人の防災意識、被災経験との関係も分析しました。

■研究の成果:他者の避難に関する情報が避難の必要性についての判断に影響を及ぼす

画像から感じられる危険に関する評定結果は、他の人がすでに避難しているという情報が、危険度の中程度や低い状況で、目にした状況の危険を高く評価させる効果があることを示しました(図3左)。また、避難の必要性に関する評定結果も、危険度の中程度や低い状況で、避難の必要性を高く評価させる効果があることを示しました(図3右)。

さらに、個人の防災意識に関する項目ならびに被災経験を併せて分析した結果、「災害への関心」「他者指向性注3)」「被災状況に対する想像力」が強いほど同調による影響を受けて避難必要性を高く判断しやすくなることが示されました。

■今後の展望

実験結果により、災害時に発信されるエリアメールに他者の避難に関する情報を含めることによって、避難の必要性の判断を促進することが示されました。その効果は、特に、状況が示す危険度が低い場合において顕著であることもわかりました。これらの結果は、避難指示の際、同調バイアスの特性を利用することが避難行動を促進するのに有効であることを示唆しています。

■用語解説

注1)認知バイアス:判断が合理性から体系的に逸脱する傾向のこと。様々な要因によって引き起こされ、知覚の歪み、不正確な判断、非論理的な解釈などを引き起こすことがある。

注2)ヒューリスティクス:十分な情報が利用できないのに短時間での判断が迫られた場合などに採択されやすい、暗黙のうちに用いられるルールや方法のこと。

注3)他者指向性:他者のために何かすること、他者との連携や友好な関係の構築に積極的な傾向のこと。

■研究プロジェクトについて

今回の研究成果は、以下の(事業・研究領域・研究課題)によって得られました。

日本学術振興会の課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業,領域開拓プログラム課題『「認知科学的転回」とアイデンティティの変容』のテーマ『個々人の心的アイデンティティの多元的認知行動解析による理解』

■論文情報

タイトル:災害時の危険判断に避難指示文による同調バイアスが及ぼす影響

著者:池田 朋矢,一川 誠

雑誌名:日本感性工学会論文誌(2023.4.28発行予定)

DOIhttps://doi.org/10.5057/jjske.TJSKE-D-22-00052

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