#次世代を創る研究者たち

ひとりではたどり着けない世界が見える国際共同実験 千葉大学 国際高等研究基幹/ハドロン宇宙国際研究センター 教授 石原 安野[ Aya ISHIHARA ]

#宇宙
2022.06.05

目次

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着実に成果を出しながら、やりたいことにも挑戦

2005年からこれまで、約16年にわたり宇宙ニュートリノ観測の大規模国際共同実験「IceCube(アイスキューブ)プロジェクト」に携わってきました。ポスドクの公募を探していたとき、これから立ち上がるというアイスキューブ実験の研究員募集の情報を見つけて「これは面白そうだ」と関心を抱いたのが現在につながる研究活動のはじまりです。

私が参加したのは、アイスキューブ実験の中でも中心的な役割を担う米国のウィスコンシン大学の研究グループです。「やりたいことがあったら何でもやっていい」と言ってもらえる、とても恵まれた環境がそこにはありました。とはいえ学生時代とは異なり、ポスドクとして実験に参加し報酬をいただくわけなので、まずは着実に実験をよくするための研究を進めることを第一とし、それと並行して無謀かもしれないけどやってみたいテーマに挑戦することにしました。

そうして挑戦したことのひとつに新たな解析手法の開発があります。2012年には、その解析手法をもとに、世界で初めて高エネルギーニュートリノ事象を同定することができました。

意見に相違があれば議論して決める

私が発案した解析手法は従来の手法とは大きく異なりました。そのため、一部の共同研究者とは意見が対立し、解析手法を認めてもらうまでに議論を重ねることになりました。

大規模な実験プロジェクトでは、議論を何度も交わしながら実験の方向性が決まっていきます。皆が納得しなくては前に進めませんから、意見に相違があるときはうやむやにせず、しっかりと議論するのです。

結果的に、私は私の手法でいくと全員に納得させましたが、そこにいたるまではとても大変でした。考え方の是非を問うだけでなく、一人ひとりの性格も把握していなければ説得はできません。そのため、プロジェクトの知り合いを増やしていくことも必要です。

高エネルギーニュートリノ事象を同定したのは、アイスキューブ実験に参加して5年目のことです。自分がイメージしたことが現実のものになったことに大きな喜びを感じましたが、同時に「次はこうしよう」「あれに挑戦したらどうだろう」と、その後の研究活動でやりたいことがいくつもわき起こりました。宇宙の研究は延々と続くものという感覚なので、感慨に浸る間もなく、すぐその後のことを考えてしまうのです。

ニュートリノ検出器の建設に向けて南極点に到達

次につなげていくことが自分の役割

国際共同実験の醍醐味はひとりではできないものを皆でつくることです。ひとりではできないから大学を巻き込む。一国ではできないから国際共同実験になる。そうやって人が集まると、大きなことができるようになります。

宇宙の謎がひとりの研究者に解明できるとは私には思えません。ギリシャ時代から脈々と探究し続けられてきたテーマであり、その潮流の中で、幾人もの研究者がそれぞれのアイデアによって未知の現象を少しずつ解き明かしてきたという経緯があります。私も自分が、そんな潮流の中に現れたひとりだと考えています。自分の役割は次につなげていくことであり、次につながる研究をしていきたいというのが、研究に取り組む私の基本姿勢です。

千葉大学研究者ロールモデル集 Progress vol.1より転載

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