CO2資源化用光触媒の活性をエタノール処理で3.6倍に向上―カーボンニュートラルサイクルの実現に前進―

2022.08.25

目次

この記事をシェア

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • LINEでシェアする
  • はてなブックマークでシェアする

千葉大学大学院融合理工学府および理学部学生の張 超、Yang Jiwon、原 慶輔、石井 蓮音、大学院理学研究院 張 宏偉 特任研究員(2021年当時)、泉 康雄 教授、同工学研究院の糸井 貴臣 教授の共同研究グループは、ポルフィリン光触媒を用いてCO2をCOへ資源化する際、エタノール処理により活性が3.6倍に向上することを見出しました。さらに、その理由はコバルトイオンへCO2が有効に反応するようになるためであることを、光反応条件での分光追跡注1)により解明しました。本研究成果はJournal of Catalysis誌で2022年7月16日(米国時間)に電子出版されました。

■ 研究の背景

化石燃料の燃焼で生じたCO2を、再生可能エネルギーを用いて燃料に戻したり、資源化することができれば、CO2の発生と資源の生成とを等しくするカーボンニュートラルサイクルを実現できます。本研究で着目したポルフィリンとは、クロロフィル(葉緑素)の成分として植物の光合成に関わる他、生体中で酸化の促進や電子を伝達する、ビタミン中にも含まれる直径1.5ナノメートル(7億分の1メートル)ほどのリング状有機分子です。このポルフィリンは、人工的にCO2を燃料や資源に変換する光触媒として、広範に研究が進められてきました。しかし、その成果の全てにおいてポルフィリン触媒あるいはポルフィリンを複合させた触媒は数時間で活性低下してしまうことが問題になっていました。

■ 研究成果

研究の背景に基づき、本研究グループはコバルトイオンをリング中心に内蔵するポルフィリン分子を酸化チタンと複合し、CO2光還元反応に用いるとCOへと資源化することを見出しました。しかしながら、やはりこの光触媒も反応試験9時間後に活性がそれまでの12%にまで下がりました。

そこで1回目の光反応試験後、光触媒の活性を回復する様々な処理(酸素処理、水素処理、大気下放置)をテストしてみたところ、大気下放置したコバルト-ポルフィリン–酸化チタン光触媒は、1回目の反応の9時間以降に低下し一定となった活性の1.54倍となり、部分的に活性回復が認められました。これは光反応試験中に還元された酸化チタンが再酸化されたため、と判明しました。

さらに40分の1気圧のエタノールガスに触れながら、1回目の光反応試験後のコバルト-ポルフィリン–酸化チタン光触媒に光照射したところ、CO2光資源化反応速度は1回目の試験の最初の速度の3.6倍にまで向上することが分かりました。光反応条件で、赤外吸収スペクトル・紫外可視吸収スペクトル・X線吸収スペクトルでこの光触媒反応を追跡注1)すると、反応開始後9時間までにコバルトイオン上に生じたヒドロキシ(OH)基が、この触媒の活性を12%にまで下げる(図1左)ものの、エタノールに触れることでOH基が取り去られ、さらにコバルト-ポルフィリン分子間の間隔が広がることでCO2分子に触れやすくなり(図1中央)、ギ酸種(HCOO, 図1右)を経て、CO生成することが実証されました。

エタノールガスに触れた後のCO光生成速度はコバルト-ポルフィリン–酸化チタン光触媒1グラムあたり毎時63マイクロmolで、触れる前の速度:1グラムあたり毎時2.3マイクロmolの27倍であり、吸収した光の1.6%がCO2からCO生成に直接関与注2)し、2回目の光反応試験3時間の間にひとつのコバルトイオンが7.4個のCO分子を作ったことが判明しました。

■ 今後の展望

クロロフィルに含まれるポルフィリンを、酸化チタンと組み合わせて人工的にCO2から資源を生成する際の光触媒として活用できることは持続可能社会でエネルギー・資源を生み出す新たな方法として魅力的で、本研究でその活性回復、さらに活性向上の処理法が判明したことはカーボンニュートラルの実現への大きな進歩です。

COを直接の資源とするためには別の触媒を用いてメタンやエチレン、プロピレン、さらにはプラスチックにまで変換することが必要になりますが、コバルト-ポルフィリンを本研究グループが別途開発したニッケル–酸化ジルコニウム光触媒と組み合わせる等で、CO2を持続可能に直接資源化できる、さらに有効な再生可能エネルギー駆動光触媒を実現することが期待できます。

■ 用語解説

注1)光反応条件での分光追跡:光触媒に光照射することで化学反応が進んでいる条件下で、赤外線を当てて反応中間物を特定したり、紫外線や可視光線を当ててコバルト–ポルフィリンの構造をみたり、X線をあててコバルトやチタンの構造や状態をリアルタイムで追いかけること。

注2)光の関与:光は電磁波であるが、同時に粒子であるとも考えられる。そこで、コバルト-ポルフィリン–酸化チタン光触媒に吸収された光の粒子数に対して、光照射により光触媒中に生じた活性化電子のうち、いくつがCO2からCOへの変換に関与したのかを量子効率と呼ぶ。CO2をCOにするには二つ電子が必要であることを利用して算出できる。

■ 論文情報

論文タイトル:Anchoring and Reactivation of Single-Site Co–Porphyrin over TiO2 for the Efficient Photocatalytic CO2 Reduction

雑誌名:Journal of Catalysis

DOIhttps://doi.org/10.1016/j.jcat.2022.07.006

学生著者所属:1 大学院融合理工学府博士前期課程2年(2021年修了)

2 理学部4年(2022年卒業)

3 大学院融合理工学府博士後期課程1年

4 大学院融合理工学府博士前期課程2年

次に読むのにおすすめの記事

このページのトップへ戻ります