【共同リリース】乳幼児期の子どものテレビ・DVDの視聴時間と発達の関連が明らかに ~1歳の視聴時間も発達に影響する~

2023.09.19

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■研究の概要:
 千葉大学予防医学センターの山本緑助教と、国立成育医療研究センターエコチル調査研究部の目澤秀俊チームリーダーらの研究グループは、テレビ・DVD視聴時間(メディア視聴時間)と発達について個人差を調整した上でも、乳幼児期のメディア視聴時間と子どもの発達が関連するかどうかを調査しました。(ランダム切片交差遅延パネルモデル注1にて検討)
 その結果、メディア視聴時間が長くなると、子どもの発達スコア注2が低くなる影響を1歳から2歳、2歳から3歳の子どもに対して一貫して認めました。しかし、1歳から2歳は2歳から3歳に比べ弱い影響でした。
 発達領域ごとの影響を見ると、1歳から2歳はコミュニケーション領域へ影響があったのに対し、2歳から3歳では粗大運動、微細運動、個人-社会の3つの領域への影響があることが分かりました。また、コミュニケーション領域の発達スコアが高いと、1年後のメディア視聴時間が短くなる影響を1歳から2歳、2歳から3歳ともに認めました。
 本研究の結果は、国際的な医学雑誌 JAMA pediatrics に2023年9月18日に掲載されました。
※本研究は環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータを用いた研究です。本研究の内容は、すべて著者らの意見であり、環境省の見解ではありません。

■プレスリリースのポイント:

  • 日本の子どもの1、2、3歳時点で、発達やメディア視聴時間の個人差を考慮しても、それぞれに影響があるかを検討しました。
  • メディア視聴時間が長くなると、1年後の発達スコアが低くなる影響が弱から中等度の強さで1歳から2歳、2歳から3歳で一貫して認めました。
  • 発達領域(コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人-社会)ごとに見ると、メディアの視聴時間が長くなると1歳から2歳ではコミュニケーション領域のみ、2歳から3歳では粗大運動、微細運動、個人-社会の3領域で発達スコアが低くなりました。(表1)
  • 上記とは逆に、コミュニケーション領域の発達スコアが高いとメディア視聴時間が短くなる影響を、1歳から2歳、2歳から3歳に一貫して認めました。
  • 子どもの発達スコアを高くする育児環境要因として、年上の兄弟、保育園の利用、子どもへの読み聞かせを示しました。

■研究の背景・目的:
 現在は、テレビやスマートフォンなど多数のメディア機器が生活に溢れています。メディア機器とどのように付き合っていくかは重要な社会課題であり、メディア機器が子どもの成長にもたらす影響の評価は重要です。
 過去の研究から、メディア視聴時間が長い子どもは発達が遅くなる関連が報告されていました。しかし、従来の解析では「メディア視聴時間が長いから発達が遅くなるのか」、それとも「発達が遅い子はメディア視聴時間が長くなりやすいのか」を分けて検討することができませんでした。
 これを解決するためには、“発達の早さの個人差”と“メディア視聴時間の個人差”を調整した上で、メディア視聴時間と発達がどのように関連しているのかを調べる必要がありましたが、近年解析手法の発展によりそれが可能となってきました。
 カナダの先行研究では、2、3、5歳のメディア視聴時間と発達を比べ、メディア視聴時間が長いと発達スコアが低くなる影響を、2歳から3歳(中等度の影響)、3歳から5歳(中等度の影響)ともに認めたことを報告しています。しかし、より低い年齢でもそのような傾向があるのか、国が違っても同様の傾向を示すのかは明らかになっていませんでした。

■研究の成果:
 エコチル調査の参加者のうち、すべての質問票に回答し、自閉スペクトラム症と診断されていない57,980人を対象に、メディア視聴時間(テレビとDVD視聴時間を1日あたり0時間、1時間未満、1時間以上2時間未満、2時間以上4時間未満、4時間以上の5つに区分)と発達スコア(日本語版Ages and Stages Questionnaire third editionを使用)の相互の影響を、1、2、3歳の3時点でランダム切片交差遅延パネルモデルにて検討しました。
 その結果、カナダの先行研究と同様に、メディア視聴時間と発達は、全体としてメディア視聴時間が長いと発達スコアが低くなる関連を認めました。
 1、2、3歳の各年齢でのメディア視聴時間と、5つの領域すべてを合計した発達スコアとの関連を検討したところ、メディア視聴時間が長い方が、1年後の発達スコアが低くなる影響を認めました。その影響の強さは、1歳から2歳では弱から中等度の影響、2歳から3歳では中等度の影響と大きくなっていました。(図1)
 その一方で、5つの領域すべてを合計した発達スコアは、1年後のメディア視聴時間の長さに影響を認めませんでした。また、メディア視聴時間が長いと、1年後のメディア視聴時間が長くなる強い影響を認めました。(図1)
 発達を領域(コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人-社会)ごとに分けて影響を検討したところ、1歳のメディア視聴時間は2歳のコミュニケーション領域に影響し、メディア視聴時間が長いと発達スコアが低くなる中等度の影響を認めました。また、2歳のメディア視聴時間は3歳の粗大運動(弱い影響)、微細運動(中等度の影響)、個人-社会(強い影響)の3領域において発達スコアが低くなる影響を認めました。(表1)
 特にコミュニケーション領域では、上記とは逆となる、発達スコアが高いとメディア視聴時間が短くなる影響を、1歳から2歳(弱い影響)、2歳から3歳(弱から中等度の影響)に一貫して認めました。  子どもの発達スコアを高くする育児環境要因として、年上の兄弟、保育園の利用、子どもへの読み聞かせが挙げられました。(表2)

■本調査の意義・解釈(著者らの見解):
 本研究により、メディア視聴時間と発達の個人差を調整しても、1歳からメディア視聴時間が長いと子どもの発達スコアが低くなる関連が認められました。これは、メディア視聴時間と発達の関連の因果関係を示す重要な成果です。一方で、本研究結果から「メディア視聴は発達によくない」と判断し、現段階で家族や支援者が親に「子どもにメディアを見せない指導」をするには及ばないと考えられます。本研究では、なぜその子どものメディア視聴時間が長くなってしまっているのか、メディア視聴時間を減らすためのその家族にとっての具体的な方法は何かについては明らかにすることはできていません。具体的な方法を明らかにするには、今後介入研究での検討が必要になります。さらに、エコチル調査は2011年~2014年に生まれたお子さんが対象のため、当時まだ広範に普及していなかったスマートフォン使用の影響も検討できていません。
 今後は、スマートフォンなど他のメディアの影響や、より高い年齢での発達への影響などについて、研究が進められることが求められます。

■用語解説
注1)ランダム切片交差遅延パネルモデル:縦断研究で変数間の因果関係を推測するためのモデル。このモデルでは、個人差と個人内の時間的変化を分けて考え、個人差は、潜在変数として特性因子によって表される。このモデルを使うと、個人内関係だけに焦点を当てて、変数間の相互作用を推測することができる。
注2)発達スコア: 保護者によって記入可能な発達のスクリーニングツール=日本語版Ages and Stages Questionnaire third edition(ASQ-3)のスコア。①コミュニケーション、②粗大運動(走る、歩く、座るなど)、③微細運動(手先の器用さ、目や口の動きなど)、④問題解決(親からの指示理解など)、⑤個人-社会(スプーンの使用、服の着脱など)の5つの領域で、それぞれ6問ずつ質問があり、できる(10点)、ときどきできる(5点)、できない(0点)で出されるスコア。

■エコチル調査について
 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査(集団調査)です。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質などの環境要因との関係を明らかにしています。

■論文情報
タイトル:Screen Time and Developmental Performance Among Children at 1-3 Years of Age in the Japan Environment and Children’s Study
著者:Midori Yamamoto, Hidetoshi Mezawa, Kenichi Sakurai, Chisato Mori
雑誌名:JAMA Pediatrics
DOI:https://doi.org/10.1001/jamapediatrics.2023.3643

■参考文献
タイトル:Association Between Screen Time and Children’s Performance on a Developmental Screening Test
著者:Madigan S, Browne D, Racine N, Mori C, Tough S
雑誌名: JAMA Pediatrics
DOI:https://doi.org/10.1001/jamapediatrics.2018.5056

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