「再出現」した超新星爆発の観測により宇宙の膨張速度を測定 50年以上前に提唱された手法を初めて実現

2023.05.12

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千葉大学先進科学センターの大栗真宗教授らの国際共同研究チームは、重力レンズ効果によって遠方の超新星爆発が約一年の時間差で複数回観測された初の事象を詳細解析することで、宇宙の膨張速度を表す宇宙論パラメータであるハッブル定数の精密な測定を行いました。これまでのハッブル定数の測定は、異なる2つの手法で行われた測定結果に食い違いが見られており、現代宇宙論の大きな謎の一つとなっています。今回の測定結果は、そのうちの1つの方法で推定されていたハッブル定数の値に近く、遅い宇宙の膨張速度を支持する結果となっています。本科学成果は米学術誌Science電子版に日本時間の5月12日に掲載されました。

研究の背景

宇宙を特徴づける宇宙論パラメータの一つ『ハッブル定数』は、現在の宇宙の膨張速度を表すパラメータで、遠方までの距離や宇宙の年齢を決める最も重要な宇宙論パラメータです。しかし、ハッブル定数の測定が精密化するにつれて、異なる手法によるハッブル定数の測定値の食い違いが顕在化してきています。具体的には、宇宙背景放射注1)の測定で低めのハッブル定数の値 (およそ67 km/s/Mpc注2) が得られている一方、近傍の銀河までの直接的な距離測定によって高めのハッブル定数の値 (およそ74 km/s/Mpc) が得られており、有意に異なっています。宇宙の標準理論が正しければこれらの値は一致するはずなので、この食い違いは宇宙の標準理論の綻びを示唆する観測として大きな注目を集めています。ただし、これらの測定において誤差を過小評価している可能性も指摘されており、さらに異なる観測による検証が待たれています。

検証に有用な新しいハッブル定数測定の手法として、超新星爆発の重力レンズ効果による到達時間の差を用いた手法が1964年にSjur Refsdal氏によって提唱されていました。遠方の超新星爆発はある確率で重力レンズ効果によって複数に分裂して観測されますが、それぞれの像は異なる経路を通ってくるため異なる時刻に観測されます 注3)。すなわち超新星爆発を観測するとき、重力レンズ効果によって、ある時間差で複数回観測されることがあります。この到達時間差は宇宙の大きさ、すなわちハッブル定数に依存するため、時間差の観測からハッブル定数の測定が可能となります。ただし、50年以上前に提唱されていたこの手法は、超新星爆発の重力レンズが最近になってからようやく発見されはじめたこともあり注4)、これまでほとんど応用例がありませんでした。超新星爆発の重力レンズ効果による到達時間の遅れは、2014年に現ミネソタ大学のPatrick Kelly氏らのチームにより、しし座の方向の55億光年先の銀河団MACSJ1149.5+2223の背後の、95億光年離れた超新星爆発の重力レンズの発見により初めて観測されました。この超新星爆発は、Refsdal氏にちなんで「レフスダール」と名付けられました。

研究の成果

ミネソタ大学のPatrick Kelly准教授や千葉大学の大栗真宗教授らを中心とする国際共同研究チームは、重力レンズ超新星爆発レフスダールの時間の遅れの詳細解析からハッブル定数の測定を行いました。この解析で鍵となったのがレフスダールの五番目の像の「再出現」です。2014年にレフスダールが発見された時点では、1ヶ月以下の短い時間差の四つの複数像のみが発見されていました。その直後に、大栗教授を含む複数の研究グループが五番目の像の再出現を予言しましたが、再出現時期の予測は半年から数年と大きくばらついていました。ハッブル宇宙望遠鏡を用いた追観測により、最初の像の出現から一年後の2015年に五番目の像の再出現が観測されたのです。この結果、大栗教授の予言が最も正確に再出現の時期を予測していたことが明らかになりました。

研究チームは五番目の像の発見後もモニター観測を続け、超新星像の光度曲線注5)の詳細な測定を行いました。人為的なバイアスを避けハッブル定数の精密かつ正確な測定を行うために、研究チームは測定した時間の遅れの値を伏せて解析を行い、また質量密度モデルも五番目の像の前に決定したものを使用する「ブラインド解析」と呼ばれる手法を採用しました。さらに、複数の研究チームの予言を、それぞれの手法の像の位置や明るさの比などの再現精度で重みづけする手法も採用されましたが、この結果、大栗教授が構築した質量分布モデルの結果で今回の測定値が主に決定されることになりました。これらの慎重な解析の結果、最終的に低めの値を支持するハッブル定数の値 (64.8+4.4-4.3 km/s/Mpc) を報告しました注6)。これは現在の宇宙の膨張速度が遅いことに対応し、宇宙背景放射から推定されたハッブル定数の値に近い値となっています。

今後の展望

今回の研究成果は、50年以上前に提唱されていたものの、まだ一度も実現していなかった超新星爆発の重力レンズの時間の遅れの観測から精密なハッブル定数が得られた最初の例となります。今後もジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の銀河団観測や2024年に観測開始予定のルービン天文台の広天域モニター観測により重力レンズ超新星が数多く発見され、超新星爆発の重力レンズ時間の遅れを用いたハッブル定数の測定例も急速に増えていくと期待されています。

補足情報

 注1)宇宙背景放射:宇宙初期に宇宙が高温高密度だった時の名残りの放射。宇宙の密度パラメータや遠方宇宙までの距離などの宇宙に関する豊富な情報が宇宙背景放射の観測から得られます。

 注2)Mpc(メガパーセク):長さを表す単位。1メガパーセク=100万パーセク=約326万光年であり、局部銀河群に属す銀河までの距離を表す際などに利用されています。

  注3)重力レンズおよび時間の遅れについては、以下の解説動画も参照してください。

《千葉大学研究紹介》先進科学センター・理学部物理学科(宇宙論グループ)

注4)重力レンズにより遠方の超新星爆発を捉えた例を、大栗教授らが2022年11月に発表しています。

『115億光年の遠方から届いた超新星爆発初期の様子 重力レンズにより超新星爆発の遠方観測世界記録を大幅に更新』(千葉大学ニュースリリース:2022年11月10日発表)

https://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/files/2022/20221110_1.pdf

注5)光度曲線:ある天体を時間をおいて何度か観測し、明るさの変化を時間の関数として描いた曲線。

注6)64.8+4.4-4.3 km/s/Mpc の +4.4と -4.3は誤差を表しています。誤差を含めると今回測定した値は60.5 km/s/Mpc ~ 69.2 km/s/Mpcとなり、低めのハッブル定数の値 (およそ67 km/s/Mpc)とよく一致しています。

研究プロジェクトについて

本研究はJSPS科研費JP18K03693, JP20H00181, JP20H05856, JP22H01260の支援を受けています。

論文情報

タイトル:Constraints on the Hubble constant from Supernova Refsdal’s reappearance

著者:Patrick L. Kelly, Steven Rodney, Tommaso Treu, Masamune Oguri, Wenlei Chen, Adi Zitrin, Simon Birrer, Vivien Bonvin, Luc Dessart, Jose M. Diego, Alexei V. Filippenko, Ryan J. Foley, Daniel Gilman, Jens Hjorth, Mathilde Jauzac, Kaisey Mandel, Martin Millon, Justin Pierel, Keren Sharon, Stephen Thorp, Liliya Williams, Tom Broadhurst, Alan Dressler, Or Graur, Saurabh Jha, Curtis McCully, Marc Postman, Kasper Borello Schmidt, Brad E. Tucker, and Anja von der Linden

掲載誌:Science

DOI:10.1126/science.abh1322

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